1999年、僕は一人の家出少年から連絡を受けました。
ちょうど、被虐待児童と殴られ妻の自立を支援する本『完全家出マニュアル』(メディアワークス)という本を
執筆していた頃です。
その少年は、新興宗教の両親の下で生まれ育ち、中学もろくに行かないまま家出してきたと言いました。
最初は建設現場で働いたものの、お布施で貧乏な両親の家計で栄養失調を強いられた体では1カ月間しか務められず、新宿2丁目で「ウリセン」を始めていたのです。
「ウリセン」とは、大人の男性に買われる少年版の援助交際です。
彼は僕の本の前に『完全失踪マニュアル』(樫村政則・著/太田出版)を読んでおり、2丁目なら隠れられると「学習」し、同性愛者でもないのに売春を繰り返しながら飢えをしのいでいたのでした。
そんな彼に、僕は言いました。
「いいかい、これまで苦しんだ君の経験は、君自身の財産なんだ。やむにやまれず、そうするしかなかった経験は、決して恥ずかしいことじゃない。だから、君がどうしてもやりたいことができて金が必要になったら、その経験を本に書いて売れ。
1500円の本でも10%の著者印税なら初版2万部で、税込300万円が君のものになる。出版社の中には、初版部数については、売れても売れなくても著者印税をくれるところがある。君が本気で
執筆する気になったら、連絡しておいで。1カ月間くらいならうちの部屋に寝泊まりしてもかまわないから」
それからしばらくして、彼から「どうしても大学に行きたい。だから本を書きたい」と電話が来ました。
彼は既に大検に合格し、寮付きのパチンコ店で住み込みで働きながら、2カ月間は働かないで済むだけの貯金もしていたのです。
その事実は、自助努力を十分に果たした彼の「本気」さと誇りを感じさせました。
僕は彼を自宅に泊め、本の書き方をほんの少しだけ教えました。
彼は、ときどき自分の生い立ちを思い出して泣きながらも、1カ月間のうちに400字詰め原稿用紙換算で800枚に及ぶ自伝史を書き上げ、自分がかろうじて知っている有名な出版社の連絡先を104で尋ねて自ら電話し、編集者にアポをとり、出版にこぎつけたのです。
それが、
『「人を好きになってはいけない」といわれて』(大沼安正・著/講談社)という本です。
このようにして念願の300万円を手に入れた彼は、大手予備校に通い出すことができ、ようやく人並みに大学受験の勉強に励むようになりました。
本気で「救われたい」と願いながらも、誰もが納得できるような精一杯の自助努力を続けてきたのに、あともう少しだけ頑張れば届くはずの目標に一人ではどうしても届かない。
そういう人なら、自分のできる範囲で支援したい。
大沼くんとの出会いから、僕はずっとそんなことを考えていました。
この国を広く見渡せば、支援を求める弱者は彼だけではありません。
ニート、ひきこもり、
自殺常習者、薬物依存症患者など、数100万人規模の社会的弱者が十分な支援が得られず、時間の経過とともに貧乏になっていくワーキングプアの暮らしを余儀なくされています。
しかし、まったくのボランティアで支援していくと、支援する側が膨大な時間や資産、体力を消費するばかりになり、支援活動を続けられなくなります。
僕自身、
自殺未遂者たちからの相談や悩み話を昼夜問わず聞くような生活を10年以上も続けていたら、自己破産を余儀なくされました。
その後、
ソーシャルベンチャー(社会起業家)の活動を知るにつれて、支援活動を持続可能なものにしていくにはビジネスの手法を用いる必要があると痛感しました。
ビジネスの手法を使うとは、たとえば、支援活動そのものが支援対象を救うのと同時に、支援する側の収入にもなるような働き方を採用することです。
それなら、1個のリンゴを分け合って食べ合うことで両者がフェア(対等)な立場でお互いの財産を商品化するビジネスモデルも成立するはず。
支援を求める人には「苦しかった経験」という財産があり、僕にはその経験を物語化して短時間で効果的に伝える「編集技術」という商品化のスキルがあります。
当事者と僕が2ショットで話す講演というスタイルで全国各地を回り、どんなに落ちぶれた人生であってもその「苦しかった経験」こそが財産であると気づき、その商品化から開かれて行く未来があることを、多くの人に伝えたいです。
この「当事者と一緒」プロジェクトによって、支援を求める人がやがて「サバイバー」(かつての当事者)として独立して講演を依頼されるようになり、そこから「
ソーシャルベンチャー」を興したり、「サポーター」(支援者)として支援する側に回れる日が来るように、一つでも成功事例を増やしていきたいです。
自助努力をちゃんと続けていけば、その重みをちゃんと評価して「あと一歩」のもどかしい状況から救いあげてくれる人が現れるのだという空気を、あなたと一緒にこの国に作りたいです。
あなたの街に、ぜひ僕たちをお招きください。
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